「今日の施術はうまくいった。でも、何が効いたのだろう」——治療家なら一度は抱くこの問いに、セラピューティック・アライアンス(therapeutic alliance)研究は40年以上にわたって答えを積み重ねてきました。技術や手技の選択だけでなく、治療家と患者の間に形成される協働関係そのものが転帰に影響を与えるという視点は、心理療法の領域で生まれ、今や理学療法・手技療法・作業療法にまで広がっています。プラセボ研究や疼痛神経科学の進展によって、この「治療関係」の効果はもはや感覚的なものではなく、測定・定量化・実験的に操作できる変数として研究されています。数百本のメタ分析と実験研究が示す一貫したメッセージを、臨床で活かすための読み解きを試みます。

セラピューティック・アライアンスとは何か——概念の誕生と歴史的背景

「患者と治療家の関係が治療結果を左右する」という直感は古くからありました。フロイトは1913年に「転移」と「作業同盟(Arbeitsbündnis)」の概念を記述し、治療的な感情的絆が分析作業の基盤になると述べています。しかしこの直感を、流派を超えて測定可能な科学的構成概念として定式化したのは、心理学者エドワード・ボーディン(Edward Bordin)でした。

Bordinら(1979年、Psychotherapy: Theory, Research & Practice)は「作業同盟(working alliance)」という概念を提唱し、これを3つの相互に連関した要素で構成されるものと定義しました。すなわち、①治療家と患者の間の情緒的絆(Bond)、②治療の目標に対する合意(Goals)、③具体的な課題や方法への合意(Tasks)の3要素です。この定式化は、精神分析・認知行動療法・来談者中心療法など理論的立場を超えて適用できる普遍的な枠組みとして設計されており、後の膨大な実証研究の礎となりました。

Bordinの理論が画期的だったのは、治療関係を単なる「ラポール」や「好感度」という漠然とした印象ではなく、測定可能な3成分に分解した点にあります。Bond(絆)は信頼・温かさ・尊重といった感情的な接続であり、Goals(目標)は「何のためにこの治療をするか」についての治療家と患者の共有認識、Tasks(課題)は「どのような方法でそれを達成するか」についての双方の同意です。この3要素は独立しているわけではなく、例えばBondが強固であれば患者は治療家の提案するTasksを受け入れやすくなり、Goalsへの合意がなければどれほど良好なBondがあっても治療は空転します。

臨床場面に翻訳すれば、「患者は今日の施術の目的を理解しているか」「この運動をなぜ行うのか、患者は自分の言葉で説明できるか」「治療の進捗について患者は率直に意見を言える雰囲気があるか」という問いがアライアンスの三要素に対応します。こうした「合意と絆の質」が転帰に影響するというのがBordin理論の核心です。

アライアンス概念はその後、複数の研究グループによって測定ツールに落とし込まれました。最も広く使われるのは**ワーキング・アライアンス・インベントリー(Working Alliance Inventory: WAI)**で、治療家用・患者用の自記式質問票として開発・検証されています。患者版WAIは例えば「私たちが取り組んでいることは、私が変わるために必要なことだと感じる」「この治療で達成したい目標は明確になっている」「治療家との関係に不安を感じる(逆転項目)」といった項目で構成されます。WAI以外にも、Helping Alliance Questionnaire(HAQ)やSession Rating Scale(SRS)など多様な測定ツールが開発されており、研究の蓄積を可能にしました。

アライアンスの測定タイミングも重要な研究課題です。治療初期(1〜3セッション)のアライアンス評価が後の転帰を予測することは一般的な知見ですが、アライアンスは治療経過に伴って変動するため、単一時点ではなく縦断的に評価することで治療の「揺れ」と「修復」の過程が見えてきます。セッション内でアライアンスが一時的に低下し、その後修復された場合(rupture-repair process)は、修復のなかったケースよりも良好な転帰につながるという知見も蓄積されており、関係の「質」だけでなく「回復力」が転帰に関わることが示唆されています。

ワーキング・アライアンスの三要素モデル(Bordin, 1979) 作業同盟 Working Alliance Bond 情緒的絆 Goals 目標への合意 Tasks 課題への合意 相互強化・相互依存 信頼・温かさ 方向の共有 方法の同意

図1: ワーキング・アライアンスの三要素モデル。Bordin(1979)が提唱したBond(情緒的絆)・Goals(目標への合意)・Tasks(課題への合意)の3要素が相互に支え合い、中心の「作業同盟」を形成する。いずれかが欠けると他の要素も機能しにくくなる。

アライアンス研究の広がり——心理療法を超えた展開

Bordinの理論的枠組みが整備されたことで、1980〜1990年代にアライアンスの実証研究が急増しました。初期の研究の多くは個人精神療法(認知行動療法・精神分析的療法・来談者中心療法)の領域で行われましたが、その後、グループ療法・家族療法・カップルセラピー・医師−患者関係・リハビリテーションへと展開されています。

アライアンスの測定は、セラピスト評定・患者評定・第三者オブザーバー評定の3種があり、研究によって採用するタイミングと方法が異なります。重要な知見として、患者が評定したアライアンス(患者自身が感じる治療関係の質)が転帰予測においてセラピスト評定よりも一貫して強い予測力を示すことが、複数のメタ分析で繰り返し確認されています。これは、治療家が「関係は良好だ」と感じていても、患者の体験とずれがある場合に転帰が悪化する可能性があることを意味します。

こうした知見は、治療家にとってある種の不快な真実を提示します。「手技は正確に実施した」「エビデンスに基づくプロトコル通りに進めた」にもかかわらず、患者が「自分の悩みは理解されていない」「何をやっているのかよく分からない」と感じていれば、アライアンスは低下し、転帰も悪化する可能性があります。治療家の視点から見えるものと患者の体験の間にある「認識の非対称性」に気づき、それを縮める努力が治療の質に直結します。

理学療法・筋骨格系治療への展開を考えると、セラピューティック・アライアンスの概念が特に重要になる場面があります。慢性疼痛患者は複数の治療者を渡り歩いてきた経験を持つことが多く、「どうせ良くならない」「先生には本当のつらさが分かってもらえない」という不信感を持って来院します。こうした患者では、治療技術の効果以前に、まずBond(信頼・尊重の絆)を形成することが転帰に影響する可能性があります。

また、Goals(目標合意)の点では、治療家が「このADL改善が目標」と考え、患者が「子どもと一緒に外遊びに行けるようになることが目標」と考えている場合、目標のずれが治療コンプライアンスの低下や早期脱落につながります。患者が大切にしているゴールを丁寧に聴取し、それを治療プランの中に組み込むことは、アライアンスのGoals要素を強化し、治療継続率や転帰改善に寄与すると考えられます。

さらにTasks(課題への合意)については、「なぜこのエクササイズを行うのか」「なぜ今日この部位を施術するのか」の根拠を患者と共有し、患者が受動的な受け手ではなく能動的な参加者として位置づけられることが、アライアンスの質を高めます。ペイン・ニューロサイエンス教育(PNE)の効果の一部は、このTasks要素の強化——「痛みのメカニズムを理解した上で主体的に取り組む」という感覚——によって媒介されている可能性があります。

心理療法の転帰を規定する要因(共通因子モデル概念図) 0% 25% 50% 75% 治療外要因 (患者の強さ等) 40% アライアンス・ 共通因子 30% 期待・希望 15% 技法特異的要因 15% ※ Lambert(1992)の推定モデルを参考にした概念図。割合は研究・疾患領域により異なる

図2: 心理療法の転帰を規定する要因の概念的割合。Lambert(1992)のモデルを参考にすると、治療技法の特異的効果は全体の約15%と推定され、アライアンスを含む共通因子や治療外要因が大きな比重を占める。ただし本図はあくまで概念的な推定であり、疾患・治療法・測定方法により実際の割合は変動する。

メタ分析が示す数字——効果量の意味と一貫性

アライアンスと転帰の関係を定量的に示す試みは1990年代から本格化しました。Horvath & Symonds(1991年、Journal of Counseling Psychology)は24本の研究を統合した最初の本格的メタ分析を発表し、アライアンスと治療転帰の間に重み付け平均相関係数 r ≈ 0.26(中程度の効果量)を報告しました。この数字は統計的に有意であるだけでなく、治療法・測定ツール・診断を問わず安定して観察されることも示されました。

その後、Martin, Garske & Davis(2000年、Journal of Consulting and Clinical Psychology)は79本の研究を統合し、r = 0.22というほぼ同様の効果量を確認しました。この研究の重要な貢献は、効果量の安定性を多様な文脈で検証したことにあります。認知行動療法・精神力動的療法・折衷的アプローチといった理論的立場の違いや、うつ・不安・物質使用障害・人格障害といった診断の違いを超えて、アライアンスは転帰に対して一貫した予測力を持ちました。つまり「優れた治療関係の効果」は特定の療法に固有のものではなく、広く普遍的な治療的要素であることが示されたのです。

最も包括的な整理をおこなったのは、Flückiger, Del Re, Wampold & Horvath(2018年、Psychotherapy)による295本の研究・3万人以上の患者を統合したメタ分析です。この研究は加重平均 r = 0.278という結果を報告し、アライアンスが治療転帰の有意な予測因子であることを改めて確認しました。この効果量(r ≈ 0.28)を「r²」に換算すると分散説明率は約8%となり、一見小さく思えるかもしれません。しかし医療統計における8%という説明率は、アスピリンによる心筋梗塞予防効果(r ≈ 0.03)やβ遮断薬による術後死亡率低下と比較しても十分に臨床意義のある数値であることが、Wampold(2001年、The Great Psychotherapy Debate)によって指摘されています。

Flückiger et al.(2018年)の分析でさらに重要な知見は、測定タイミングによる影響です。治療初期(第1〜3セッション)のアライアンスが転帰を予測するという従来の知見に加え、治療中盤のアライアンスも独立した予測力を持つことが示されました。また、アライアンスと転帰の関係は、事前の症状重症度・患者属性(年齢・性別・診断)・治療の長さをコントロールしても有意に残存することが確認されており、「もともと良くなりやすい患者が高いアライアンスを形成する」という逆因果(reverse causality)の解釈を弱める証拠となっています。

さらに同メタ分析は、**アライアンスの「断裂と修復(rupture-repair)」**が転帰に与える独特の役割を指摘しています。治療過程においてアライアンスが一時的に低下し(断裂:患者の不満・回避・対立など)、それを治療家が積極的に扱って修復した場合、修復のなかったケースよりも良好な転帰が観察されました。これは、問題のない「高品質な関係の維持」だけでなく、関係の「回復力と修復能力」が治療効果に貢献することを示唆しており、治療家に「関係の悪化を敏感に察知し、それを扱う能力」の重要性を示しています。

主要メタ分析による効果量の比較 アライアンスと治療転帰の相関係数(r) 0 0.20 0.40 r=0.30 r = 0.26 Horvath & Symonds (1991) N=24研究 r = 0.22 Martin et al. (2000) N=79研究 r = 0.28 Flückiger et al. (2018) N=295研究

図3: 主要3メタ分析によるアライアンスと転帰の相関係数(r)の比較。30年以上の研究蓄積を通じて、効果量はr=0.22〜0.28の範囲で安定しており、治療法・診断を超えた普遍的な関連が示されている。

理学療法・手技療法における治療関係と疼痛転帰

心理療法で積み重ねられたアライアンス研究の知見は、理学療法・手技療法の文脈でも検証が進んでいます。特に慢性腰痛患者を対象とした研究が先行しており、治療関係の質が疼痛強度・機能的アウトカム・患者満足度に影響することを示す証拠が蓄積されています。

Ferreira PH, Ferreira ML, Maher CG, Refshauge KM, Latimer J & Adams RD(2013年、Physical Therapy)は慢性腰痛患者を対象としたコホート研究において、治療初期のアライアンスが8週後の転帰を有意に予測することを示しました。この研究では、患者と理学療法士の双方が治療開始直後にアライアンスを評定し、8週後の疼痛(NRS)・障害度(Roland-Morris Disability Questionnaire)・患者全般的印象変化(PGIC)との関連を分析しています。結果として、患者が評定した初期アライアンスのスコアが高いほど、8週後の疼痛強度が有意に低く、機能的転帰も良好でした。注目すべきは、この関連が治療前の疼痛強度・障害度・心理的苦痛などの交絡因子を統制した後も有意に残存した点であり、アライアンスが疼痛転帰に対して独立した予測力を持つことを示す証拠となっています。

さらに実験的設計から因果関係に迫ったのが、Fuentes J, Armijo-Olivo S, Funabashi M, Miciak M, Dick B, Warren S, Rashiq S, Magee DJ & Gross DP(2014年、Physical Therapy)の研究です。慢性腰痛患者を対象に、理学療法士が提供するアライアンスの質を意図的に操作するという実験的統制試験(experimental controlled study)を実施しました。患者は「強化アライアンス条件」(治療家が積極的な傾聴・感情的検証・励まし・目標設定の対話を実施)と「標準アライアンス条件」(最小限の中立的なやり取り)にランダムに割り付けられ、どちらの条件でも同一の手技療法(マニュアルセラピー)を受けました。

この研究の結果は明確でした。強化アライアンス条件の患者は、標準条件と比較して、施術後の疼痛強度(VAS)が有意に低く、圧痛閾値(Pressure Pain Threshold: PPT)も有意に上昇しました。施術そのものは同一であるにもかかわらず、治療関係の質を操作するだけで鎮痛効果の大きさが変化したのです。これは、アライアンスが単なる患者満足度の問題ではなく、疼痛変調のメカニズムを通じた生理学的な変化を引き起こす変数であることを実験的に示した点で、非常に重要な知見です。

このFuentes et al.の実験が示す神経科学的含意は深いものがあります。アライアンスの強化が鎮痛をもたらすとすれば、その生理学的経路はどこを通るのでしょうか。現在有力な仮説は、**期待(expectation)と下行性疼痛抑制系(descending pain modulation)**を介した経路です。治療家が示す積極的な関与・「良くなれる」という見通し・施術の根拠を共有する行動が、患者の回復への期待を高め、前頭前野−中脳水道周囲灰白質(PAG)−延髄吻側腹内側部(RVM)を経由する下行性抑制系を賦活し、内因性オピオイドやセロトニン・ノルエピネフリンの放出を促進するという機序が考えられます。プラセボ研究(Benedetti 2011など)で実証された「文脈効果による鎮痛」と、アライアンスによる鎮痛はメカニズムレベルで重なる部分が大きいと考えられています。

Fuentes et al.(2014)研究デザイン概略 慢性腰痛患者へのアライアンス条件操作実験 慢性腰痛患者 (ランダム割付) 強化アライアンス群 積極的傾聴・感情検証 目標設定対話・励まし 標準アライアンス群 最小限の中立的対話 (同一手技施術) 共通:同一マニュアルセラピー 施術内容は両群で同一 評価:疼痛強度(VAS) 圧痛閾値(PPT) → 強化群で有意な改善

図4: Fuentes et al.(2014)の実験的研究デザイン。施術内容(マニュアルセラピー)を両群で統制した上でアライアンスの質のみを操作し、強化アライアンス群で疼痛強度の有意な低下と圧痛閾値の上昇が観察された。

臨床コミュニケーションとアライアンス形成——実装のエビデンス

アライアンスが転帰に影響するという知見は、「では治療家は何をすればアライアンスを強化できるのか」という実践的な問いへと自然につながります。この問いに答えようとしたのが、コミュニケーションとアライアンスの関連を検討した研究群です。

Pinto RZ, Ferreira ML, Oliveira VC, Franco MR, Adams R, Maher CG & Ferreira PH(2012年、Journal of Physiotherapy)は、患者中心コミュニケーション(patient-centred communication)と治療アライアンスの関連を検討した系統的レビューを発表しました。この研究では、共有意思決定(shared decision-making)・共感的傾聴・情報提供・患者の懸念の確認・患者が大切にする目標の統合といったコミュニケーション要素が、患者評定の治療アライアンスと正の関連を示すことが複数の研究から確認されました。換言すれば、アライアンスは「なんとなく相性が良い」という偶発的な産物ではなく、特定のコミュニケーション行動を通じて意図的に形成・強化できる変数であることが示されました。

患者中心コミュニケーションの核心は何でしょうか。「患者の話をよく聞く」という一般的な原則を超えて、研究が注目するのは以下のような行動です。まずアジェンダ設定——治療の最初に「今日は何を一番解決したいですか?」と聞き、患者のプライオリティを明確にすること。次に情動的検証(emotional validation)——「それは本当につらいですね」と患者の感情経験を否定せずに受け取ること。そして根拠の共有(rationale giving)——「なぜ今日この施術をするのか」を平易な言葉で説明し、患者が受動的な受け手ではなく能動的な参加者として治療にコミットできるようにすること。これらの行動はいずれも訓練によって改善できるスキルであり、治療家の個人的な「人格」に依存するものではありません。

注目すべきは、こうしたコミュニケーション行動が施術時間の大幅な延長を必要としない点です。研究によれば、初回セッションの最初の数分間における治療家の行動(視線を合わせる・患者の言葉を繰り返す・割り込まない・患者の感情に名前を付ける)が、その後のアライアンス評定に大きく影響します。量より質——短くても患者が「理解された」と感じられるやり取りが、長くても一方的な説明より有効に機能します。

さらに、アライアンスは固定したものではなく、セッションごとに変動します。Session Rating Scale(SRS)のような簡便なツールをセッション末に使い、「今日の治療はあなたが求めていたものでしたか?」「何か言えなかったことはありますか?」と定期的に確認することで、アライアンスの低下を早期に検出し、方向修正(course correction)できます。この「リアルタイムのフィードバック活用」は、それ自体がアライアンス強化に寄与するというメタ分析結果(Lambert & Shimokawa, 2011)も存在します。

アライアンスが疼痛変調を媒介する神経経路(仮説モデル) 治療的コミュニケーション アライアンス形成 回復期待の形成 (前頭前野) PAG活性化 中脳水道周囲灰白質 RVM・延髄下行路 内因性オピオイド放出 脊髄後角への抑制 ノシセプティブ入力の減弱 疼痛強度の低下 圧痛閾値の上昇・機能改善 ※ PAG=中脳水道周囲灰白質 RVM=延髄吻側腹内側部 プラセボ研究・Fuentes et al.(2014)の知見に基づく仮説モデル

図5: セラピューティック・アライアンスが疼痛変調を媒介する神経経路の仮説モデル。治療的コミュニケーションによる回復期待の形成が、前頭前野−PAG−RVMを経由する下行性抑制系を賦活し、脊髄後角での伝達を減弱させることで鎮痛をもたらすと考えられる(仮説)。

臨床への示唆——明日の診療で視点が変わること

セラピューティック・アライアンス研究の蓄積は、治療家の日常臨床にいくつかの重要な視点の転換を促します。

アライアンスは「技法を超えた」ものではなく「技法と並走する」もの

アライアンス研究を初めて知った治療家の一部は、「では技術を磨くより関係を良くすれば良い」という誤解に向かうことがあります。しかしFlückiger et al.(2018年)を含む研究者たちが一貫して強調するのは、アライアンスと技法は拮抗するのではなく相乗するという点です。エビデンスに基づく技法を高品質なアライアンスの中で提供することが最良の結果をもたらします。技術なき共感も、共感なき技術も、いずれも最大の効果を発揮しません。

初回5分間の「質」に投資する

初回セッションの冒頭数分間に治療家がどのように振る舞うか——患者の目を見るか、話を遮らずに聴くか、感情に名前を付けて共感を示すか——は、その後のアライアンス評定に不釣り合いなほど大きな影響を与えます。Pinto et al.(2012年)のレビューでも、初回セッションの患者中心コミュニケーションの質が以降のアライアンスの予測因子であることが示されています。アジェンダ設定——「今日、一番話したいことは何ですか?」という問いかけ——は時間的コストが低く、患者のプライオリティを把握する効率的な手段です。

患者が「話してよかった」と感じる体験は、疼痛そのものへの評価を変えることがあります。慢性疼痛患者にとって「自分の痛みを正確に理解してもらえた」という感覚は、しばしば長年求めていたものであり、それが達成されるだけで治療への関与度・ホームプログラムの遵守率・受診継続率が変化します。

目標の「共有」と「合意」を分ける

Goals要素の実装において重要なのは、目標を「伝える」のではなく「作る」プロセスへの患者の参加です。「8週後に腰痛がNRS3以下になる」という目標が治療家にとって妥当であっても、患者が「孫と遊べるようになりたい」「職場復帰よりも日常生活の質が大事」と考えているならば、目標の表現と意味合いを患者の文脈に合わせて翻訳する対話が必要です。この「目標の協働構築(collaborative goal-setting)」はアライアンスのGoals要素を強化し、治療への内発的動機を維持する基盤となります。

アライアンスの「断裂」を怖れず、扱う

治療過程でアライアンスが低下する「断裂(rupture)」は、治療家の失敗ではなく治療の自然なダイナミクスです。患者が「少し違う感じがした」「今日の説明が分からなかった」と感じた瞬間を治療家が察知し、「今日の施術、何か伝わりにくいところはありませんでしたか?」と積極的に問いかけることが、断裂の修復(repair)につながります。Flückiger et al.(2018年)が示すように、修復を経たアライアンスはその後の転帰をかえって強化する可能性があります。断裂を扱う能力は、継続的な自己観察と訓練によって高められるスキルです。

アライアンス評価ツールの簡便な活用

セラピストが追加できる最もコスト対効果の高い介入の一つが、毎セッション末の短いアライアンス評価です。Session Rating Scale(SRS)は4項目・各10cmのVASから成る1分以内で完了する質問票であり、患者からのフィードバックを可視化します。患者がスコアを低くつけたセッションを治療家が議論の機会として扱うことで、早期の関係修復と治療方向の修正が可能になります。こうしたフィードバック活用は、行わなかったケースより転帰が改善するという証拠が蓄積されています。

臨床場面でのアライアンス形成サイクル ① 開始:アジェンダ設定 「今日一番大切なことは?」 ② Goals:目標の協働構築 患者の価値観に合わせた目標 ③ Tasks:根拠の共有 「なぜこの施術を行うか」説明 ④ Bond:感情検証・傾聴 共感・尊重・温かみ ⑤ フィードバック確認 「今日の施術はいかがでしたか?」 断裂を検出した場合 → 修復対話へ(②へ戻る) 次セッションへ継続

図6: 臨床場面でのアライアンス形成サイクル。Bond・Goals・Tasksの3要素を毎セッションで意識的に実践し、終了時のフィードバック確認で断裂を早期発見・修復することで、継続的にアライアンスの質を高める。

まとめ

セラピューティック・アライアンスは、治療関係をめぐる曖昧な「感覚」を科学的に操作・測定可能な変数として定式化したものです。Bordin(1979年)の三要素モデルから始まり、Horvath & Symonds(1991年)・Martin, Garske & Davis(2000年)・Flückiger et al.(2018年)の一連のメタ分析は、アライアンスが治療転帰の有意かつ安定した予測因子であることを3万人以上のデータで確認してきました。理学療法の領域においてもFerreira et al.(2013年)による縦断的予測研究とFuentes et al.(2014年)による実験研究が、施術の技術的内容を超えた治療関係の効果を実証しています。

臨床的に重要な示唆は明確です。①治療目標を患者と協働構築すること(Goals)、②施術の根拠を患者が理解できる言葉で共有すること(Tasks)、③感情的な検証と傾聴によって信頼関係を形成すること(Bond)——この3要素はいずれも訓練によって向上できるスキルです。さらに、毎セッションの簡便なフィードバック収集と、アライアンスの断裂を察知した際の積極的な修復対話が、転帰を継続的に改善する可能性があります。

治療家が「良い施術をした」と感じる日が、必ずしも患者が「よく分かった・よく理解された」と感じた日とは限りません。この認識の非対称性を縮めようとする継続的な努力が、アライアンス研究の実践的核心です。技術とコミュニケーションを二項対立として捉えるのではなく、双方を統合した治療の質の向上——それがセラピューティック・アライアンス研究が治療家に投げかける問いです。

参考文献

  1. Bordin ES (1979). The generalizability of the psychoanalytic concept of the working alliance. Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 16(3), 252–260.
  2. Horvath AO, Symonds BD (1991). Relation between working alliance and outcome in psychotherapy: A meta-analysis. Journal of Counseling Psychology, 38(2), 139–149.
  3. Martin DJ, Garske JP, Davis MK (2000). Relation of the therapeutic alliance with outcome and other variables: A meta-analytic review. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 68(3), 438–450.
  4. Flückiger C, Del Re AC, Wampold BE, Horvath AO (2018). The alliance in adult psychotherapy: A meta-analytic synthesis. Psychotherapy, 55(4), 316–340.
  5. Fuentes J, Armijo-Olivo S, Funabashi M, Miciak M, Dick B, Warren S, Rashiq S, Magee DJ, Gross DP (2014). Enhanced therapeutic alliance modulates pain intensity and muscle pain sensitivity in patients with chronic low back pain: an experimental controlled study. Physical Therapy, 94(4), 477–489.
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  7. Pinto RZ, Ferreira ML, Oliveira VC, Franco MR, Adams R, Maher CG, Ferreira PH (2012). Patient-centred communication is associated with positive therapeutic alliance: a systematic review. Journal of Physiotherapy, 58(2), 77–87.